東京高等裁判所 昭和51年(行ケ)62号 判決
一 請求の原因事実中、本願意匠について、出願から審決の成立に至るまでの特許庁における手続の経緯及び審決の理由に関する事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について考察する。
ところで、本願意匠の要旨(ただし、その靴底がスポーツパンプ形と呼ばれるとの点を除く。これは、単なる呼び方の問題であつて、靴底の態様の実質に関するものではないから、両意匠の類否の判断に関係がないのはいうまでもない。)及び引用意匠の要旨(ただし、その細革部分が巻線状の縁取りであるか、それとも押し型によつてギザ目を付けた縁取りであるかの点を除く。)並びに両意匠の共通点及び相違点が審決の認定どおりであることは、当事者間に争いがない。本件における争点は、両意匠の相違点の一部及び共通点のうち、何が主要部であるか、その結果として、両意匠が類似するものであるか否かにある。以下この点について検討する。
1 砂除け皮革片と蝶結び紐
ゴルフシユーズが観音の目に触れる場合としては、(一)店頭などに陳列されている場合、(二)購買者が手に取つて見る場合、(三)カタログその他の広告文書などに掲載されている場合、(四)履いた本人が上から眺める場合、(五)他人が履いているのを近くで眺める場合、(六)他人が履いているのを遠くから眺める場合などが考えられるが、これらの場合のゴルフシユーズに対する視点は、(六)の場合は水平方向になるが、(四)の場合は上方であり、(五)の場合は上方又は斜め上方であり、(一)、(二)の場合は上方又は斜め上方が多いと考えられるし、(三)の場合については、成立に争いのない甲第七号証(雑誌「MEN'S WEAR」一九六五年一月二九日号)、第一一号証の一二(雑誌「アサヒゴルフ」一九六七年一月号五六頁)、第一二号証の一〇(同誌一九六七年三月号八六頁)、乙第三号証の三(雑誌「BOOT and SHOE RECORDER」一九六一年四月一日号)、第一五号証の三(同誌一九六三年四月一日号)に上方又は斜め上方から見たゴルフシユーズが掲載されており、右の各証拠から(三)の場合も、その視点は上方又は斜め上方が多いことが推認される。そして、観者の目に映る機会は、(六)の場合が他の場合を合計したものより多いとは考えられないし、全体としては、上方から又は斜め上方から眺める場合が多いといわなければならない。そうだとすれば、両意匠の砂除け皮革片と蝶結び紐はよく観者の目に映る部分であるということができる。
そして、前掲甲第七号証及び成立に争いのない甲第六号証(登録第二四三九六〇号意匠公報)、第一一号証の一ないし一四(雑誌「アサヒゴルフ」一九六七年一月号)、第一二号証の一ないし一一(同誌一九六七年三月号)、乙第一六号証の一ないし三(オニツカ株式会社発行「タイガースポーツシユーズカタログ」一九六五年四月号)によれば、ゴルフシユーズにおいて、甲部上面前方に切りひだ態様の皮革片と蝶結び紐を表わしたものが、本願意匠の出願前にありふれた構成態様であつたことが認められるが、前掲乙第一五号証の三、第一六号証の二によれば、その当時右のような構成態様でないゴルフシユーズも存在していたことが認められ、ゴルフシユーズといえば必ず本件両意匠のような皮革片と蝶結び紐を表わしているものとも考えられない。
したがつて、ゴルフシユーズの甲部上面前方がどのような構成態様になつているかは、観者の十分関心を有するところであり、観者に対して顕著な印象を与える主要部といわなければならない。
2 細革部分の調子と分厚い靴底
ゴルフシユーズに対する視点についての前記1の(六)の場合及び(一)ないし(三)、(五)のうちゴルフシユーズを斜め上方から眺める場合(これらの場合が、ゴルフシユーズを上方から眺める場合に比し著しく少ないとも思われない。)には、ゴルフシユーズの周側も、よく観者の目に映る部分である。
そして、甲皮と靴底との境界部に明調子又は甲皮と対照的な調子(トーン)の線を表わすことが各種の靴において、厚い靴底を用いることがスポーツ専用靴と婦人靴において、それぞれ本願意匠の出願前から靴製造業者間にごく普通に知られていたことは当事者間に争いがなく、前掲甲第六号証及び成立に争いのない乙第一四号証の一ないし三(雑誌「BOOT and SHOE RECORDER」一九六二年一二月一日号)によれば、ゴルフシユーズにおいても厚い靴底を用いることが、本願意匠の出願前から靴製造業者間にごく普通に知られていたことが推認されるけれども、およそ靴であれば必ずこのような構成態様を有するというわけでもない(ゴルフ靴に限つても、前掲甲第七号証、乙第一五号証の三、第一六号証の二によつて、このような構成態様でないものの存在が認められる。)。
したがつて、ゴルフシユーズの周側がどのような構成態様になつているかということも、観者の十分関心を有するところであり、観者に対して顕著な印象を与える主要部といわなければならない。
3 ゴルフ用鋲
前掲甲第六号証、第七号証、乙第一四、第一五号証の各三、第一六号証の二によれば、ゴルフシユーズにゴルフ用鋲を突設するのは、きわめて一般的なことであることが認められ、ゴルフ用鋲そのものが本来機能的に要請されるものであり、また位置的にも比較的観者の目に触れる機会が少ないことなどを考えれば、ゴルフ用鋲の突設そのものが、ゴルフシユーズの意匠の主要部であるとは認められない。
4 以上の諸点を考慮し、かつ、本願意匠を実施したゴルフシユーズの履かれた状態の写真であることに争いのない甲第一三号証の一ないし三にも照らし、本願意匠と引用意匠とを全体として対比観察するとき、主要部たる1の共通点が存在するにしても、他の主要部たる2の相違点、すなわち、本願意匠において甲皮及び靴底を暗調子に、細革部分を明調子にしているとともに、靴底の本底と踵部がほぼ同じ高さで分厚く、土踏まず部分を僅かに凹弧としているのに対し、引用意匠においては、細革部分(巻線状の縁取りであるか、押し型によりギザ目を付けた縁取りであるかは明らかでないが、いずれにしても、)が甲皮及び靴底との間に調子の相違がなく、靴底の本底と踵部に一般紳士靴態様の段差のある点が、顕著に目立ち、両意匠は、美感を異にする非類似の意匠というべきである。したがつて、両意匠を類似するものとし、本願意匠を登録すべきでないとした審決の判断は誤りであり、本件審決は、違法として取消されるべきものである。
三 よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を正当として認容する。